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東京地方裁判所八王子支部 昭和44年(ワ)161号 判決

原告

関谷高滋

ほか一名

被告

大久保勇

ほか一名

主文

被告両名は各自、原告関谷高滋に対し五一万六八〇七円及びこれに対する昭和四四年三月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告西村喜作に対し四五万三五六〇円及びこれに対する昭和四四年三月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告両名のその余の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告関谷高滋と被告等との間に生じた分はこれを五分し、その二を同原告の、その余を被告等の負担とし、原告西村喜作と被告等との間に生じた分はこれを三分し、その一を同原告の、その余を被告等の負担とする。

この判決は、原告等勝訴部分に限り、原告関谷高滋においては被告等に対し各金一三万円宛の担保を、原告西村喜作においては被告等に対し各金一〇万円宛の担保を、それぞれ供するときは、当該原告において、当該被告に対し、仮に執行することが出来る。

事実

原告等訴訟代理人は「被告等は各自、原告関谷高滋に対し、九四万七五六九円、原告西村喜作に対し六一万一三六〇円、及びそれぞれの右金員に対する昭和四四年三月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  被告大久保は被告丸角電器株式会社(以下、被告会社と称する)に雇傭され、被告会社の業務に従事しているもの、原告関谷は東京都昭島市朝日町四の一の二四において店舗を構え、金華堂菓子店の名称で菓子類販売を、原告西村は同様にして東京都昭島市朝日町四の一の二六において店舗を構え、万屋洋品店の名称で洋品類販売をそれぞれ営んでいるものである。

二  ところで被告大久保は昭和四三年八月三〇日午前零時二分頃、昭島市朝日町四丁目一番二四号先路上において被告会社所有の自家用普通乗用貨物自動車(多摩四―ふ―二九七八号)(以下本件自動車と称する)を昭島市役所方面から立川市方面に向け時速四〇粁の制限速度を一〇粁位超えて時速五〇粁位で、飲酒の上運転し、折から降雨中でもあつたため、先行車を追越そうとした際、ハンドル操作を誤り、本件自動車を右前方に滑走させ、歩道上に乗り上げ、原告関谷方の店舗の向つて左方に突込み衝突させ、なおも勢い余つた本件自動車を更に同所より一二・〇五メートル離れて同一側方にある原告西村方の店舗向つて右側に激突させ、それぞれ店舗などを損壊したものである。

三  被告会社は本件自動車を所有し、常時自己の営業のためこれを使用していたものであり、且つ被告会社の事業の執行に使用する自動車四台のうち、一台を被告大久保の専属使用車として、同被告に通勤並びに商品販売、外交等の用途に使用させ且つ責任保管させていた。また右自動車の鍵は被告大久保が常に所持していた。

四  仮にそうでないとしても、被告会社は被告会社の従業員に運転させるために所有している自動車につき、従業員が営業時間外に運転することは容易に推測が出来るので、被告会社は本件自動車を従業員が無断使用しない様に、金庫等に鍵を保管して持出を防ぎ、夜間等は車庫に駐車して無断使用を防止すべき注意義務があるのに、本件自動車の鍵の保管を被告大久保に委ね、同人の自由使用を認め、且つ自動車を被告会社の管理人の許可なくして自由に運転出来る場所に駐車させていた。

五  しかして被告大久保は本件自動車を、いつも被告会社の業務終了後は被告会社より自宅まで運転使用していたものであり、被告会社もこれを承認していた。本件事故は被告大久保が昭島市松原町の被告会社多摩営業所よりいつものとおり本件自動車を運転し、帰宅する途上において発生したものであるから、本件事故は被告会社の業務の執行につき生じたものである。

六  原告関谷は本件交通事故により次のとおり合計九四万七五六九円の損害を蒙つた。

(一)  店舗修繕費 三一万五〇〇〇円

(二)  シヤツター等改修費 七万一八七〇円

(三)  巻上式日除改修費 一万八一〇〇円

(四)  シヨーケース等損壊 九万七二八〇円

(五)  商品損害 一三万六八七五円

(六)  諸雑費(茶菓食事代) 八四四四円

(七)  営業不能による損害 二万五〇〇〇円

(八)  営業減収による損害 四万五〇〇〇円

(九)  同原告個人の休業による損害 三万円

右(九)について説明を加えると、同原告は菓子販売業とは別に自身、昭和飛行機工業株式会社に勤務しているものであるが、本件事故により当日より一〇日間会社勤務をすることが出来なくなつた。このため三万円の得べかりし利益を喪失した。

(一〇)  慰藉料 二〇万円

右(一〇)について説明を加えると、前記店舗は居宅を兼用しているもので、原告関谷は家族と共にここで生活しているものであるが、深夜本件自動車が飛込んで来たため、幸にして身体負傷等はなかつたが、場合によつては生命身体の損傷を免れ難いものであつた。これによる精神的負担はたとい店舗等構築物が原状に復しても償いえないものであり、これを金銭に換算すれば、二〇万円を以て相当とする。

七  原告西村は本件交通事故により次のとおり合計六一万一三六〇円の損害を蒙つた。

(一)  店舗修繕費 一六万円

(二)  シヨーウインド改修費 八万七三〇〇円

(三)  日除けアーチ修理費 一万五七〇〇円

(四)  塗装修繕費 一万〇七四五円

(五)  照明設備等修繕費 一万五一〇〇円

(六)  看板書替費 三五〇〇円

(七)  フロツク取替費 二七五〇円

(八)  諸雑費(茶菓子) 三三四五円

(九)  借入金利息 二万〇一二〇円

右(九)について説明を加える。原告西村は本件事故による建物修理のため多摩中央信用金庫(昭島支店)から昭和四三年九月一四日八〇万円を利息日歩二銭五厘、弁済期昭和四三年一二月三一日と定めて借受けた。同原告は右借受金に対し左のとおり利息等の支払いをした。

1  元金八〇万円に対する昭和四三年九月一四日より同年一二月二四日まで一〇九日分、日歩二銭五厘の割合による計一万〇二〇〇円(同原告は弁済期日前の昭和四三年一二月二四日内金四〇万円を弁済した)。

2  残元金四〇万円に対する昭和四三年一二月二四日から昭和四四年三月三一日まで九八日間分、日歩二銭五厘の割合による計九八〇〇円。

3  同原告は右金庫より借受けるにつき手形貸付の方法によつたので元金八〇万円借入のとき手形貼用印紙代として七〇円、残金四〇万円となつたときの手形貼用印紙代として五〇円、合計一二〇円を支出した。

右1乃至3の合計二万〇一二〇円となる。

(一〇)  営業不能による損害 四万五〇〇〇円

(一一)  商品その他の損傷 四万七八〇〇円

(一二)  慰藉料 二〇万円

右(一二)の慰藉料の請求に関しては、原告西村が本件事故によつて精神的損害を蒙つた理由は、原告関谷の場合と全く同一の理由に基づくもので、その損害を慰藉すべき額は二〇万円を以て相当とするものである。

八  すると、被告大久保は不法行為者として民法第七〇九条に基づき、被告会社は民法第七一五条に基づき、右両名連帯して原告関谷に対しては損害金九四万七五六九円、原告西村に対しては損害金六一万一三六〇円及びそれぞれ右各金員に対する右各損害発生の後である昭和四四年三月六日以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、右被告等に各自右各損害金の支払いを求めるため本訴各請求に及んだと述べ、

被告会社の抗弁に対し、第一項の事実は認める。第二、三項の事実は否認する。第四項の主張は争うと述べた。〔証拠関係略〕

被告大久保は「原告等の請求を棄却する」との判決を求め、原告等の請求原因に対し、第一項の事実中、被告大久保が本件事故当時被告会社に雇傭され、同社の業務に従事していたことは認め、その余の事実は不知。第二項の事実中、被告大久保がハンドル操作を誤つたとの点は不知、その余の事実は認める。第三項の事実中、被告会社が本件自動車を所有し、常時自己の営業のためこれを使用していたことは認める。第五項の事実中、被告大久保が本件自動車を、いつも被告会社の業務終了後被告会社より自宅まで運転使用していたものであり、被告会社もこれを承認していたこと、また本件事故は、被告大久保が昭島市松原町の被告会社多摩営業所よりいつものとおり本件自動車を運転し、帰宅する途上において発生したものであることはすべて認める。第六、七項の事実はすべて不知。第八項の主張は争うと述べた。〔証拠関係略〕

被告会社訴訟代理人は「原告等の各請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因に対し、第一項の事実は認める。第二項の事実中、被告大久保が原告等主張の日時場所において、被告会社所有の本件自動車を運転し、原告等の各店舗にこれを衝突させた事実は認めるが、その余の事実は不知。第三項の事実中、被告会社が本件自動車を所有し、常時自己の営業のためにこれを使用していたことは認めるが、その余の事実は否認する。第四、五項の事実は否認する。第六、七項の事実も否認する。第八項の主張は争うと述べ、抗弁として、

一  被告大久保は本件事故発生当時被告会社の多摩営業所(昭島市拝島町三七七八番地所在)に勤務していた。

二  被告大久保は昭和四三年八月二九日(本件事故発生の前日)右営業所の営業終了後同僚社員三名と共に、個人的な交際として右営業所からタクシーで立川市柴崎町所在のバー「サボテン」に行き、午後一一時三〇分頃まで同所で遊興、飲酒した。

三  そこで被告大久保等は右バー「サボテン」から帰宅するにつき、深夜まで飲酒していた関係上、各々タクシーで帰ることになり、同席していた川崎肇外一名が午後一一時頃、先にタクシーで帰り、被告大久保が約三〇分後にタクシーで立川市富士見町一の一の自宅前まで来た。ところが被告大久保はそこで降りて自宅に入るということをせず、そこを通り過ぎ、はるかに遠方の前記被告会社営業所まで行き、勝手に被告会社の本件自動車を運転して、本件の事故を起こしたものである。よつて被告大久保の本件加害行為は、被告会社の業務の執行とは何ら関係がない。

四  おもうに、使用者責任の要件である「その事業の執行につき」なされたとは、事業の執行の過程中になされたとの意味であり、被傭者大久保の行為は、その担当する職務についてなされたものでなければならないと解釈されるべきであり、また使用者責任は自動車損害賠償保障法第三条の責任と同一ではない。すると、以上のとおり、被告大久保の本件加害行為は被告会社の事業の執行と何らけん連関係がないばかりか、使用者(被告会社)の事業の拡張された活動範囲内の行為にも該当するものではない。よつて原告等の主張する使用者責任は理由がない、と述べた。〔証拠関係略〕

理由

被告大久保が被告会社に雇傭され、昭和四三年八月三〇日当時被告会社の業務に従事していたことは各当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、原告関谷は、同原告の肩書地に店舗兼居宅の建物一棟を所有し、同原告の妻千代子がその店舗で金華堂菓子店の屋号で菓子類の販売業をなし、原告西村は同原告の肩書地に店舗兼居宅の建物一棟を所有し、同原告が右店舗で万屋洋品店の屋号で洋品類販売業を営んでいたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない(右事実中、原告関谷が右肩書地に右店舗兼居宅の建物一棟を所有していたこと、及び原告西村が右肩書地に右店舗兼居宅の建物一棟を所有して、同建物で右のとおりの営業を営んでいたとの事実は、原告等と被告会社との間においては争いがない)。

ところで被告大久保が昭和四三年八月三〇日午前零時二分頃昭島市朝日町四丁目一番二四号先路上において、被告会社所有の自家用普通乗用貨物自動車(多摩四―ふ―二九七八号)(以下、本件自動車と称する)を運転中、事故を起したことは各当事者間に争いがない。

そして〔証拠略〕によると、被告大久保は昭和四三年八月二九日の夜立川市柴崎町所在バー「サボテン」においてビール三本位を飲酒し、その酒気を帯びたまま、翌三〇日午前零時二分頃、前記昭島市朝日町四丁目一番二四号先路上を本件自動車を運転して、昭島市役所方面から立川市方面に向い進行中、先行車を追越そうとして、時速四〇粁の制限速度を一〇粁位超えた時速五〇粁位を出して右追越のためのハンドル操作をした際、折から降雨中でもあり、且つ、前述の酒酔いも手伝つて、ハンドル操作を誤り、本件自動車を右前方に滑走させ、歩道上に乗り上げ、原告関谷方の店舗の向つて左方に突込み衝突させ、なお勢い余つて右自動車を更に同所より一二・〇五メートル離れて同一側方に立つている原告西村方店舗向つて右側に激突させ、それぞれの店舗などを損壊したことが認められ、右認定に反する証拠はない(右事実中、被告大久保の飲酒の量及び同人がハンドル操作を誤つたとの点を除いて、その余の事実については原告等と被告大久保との間においては争いのない事実である)。すると被告大久保は本件事故に対する不法行為者の責任として、右行為によつて生じた原告等の各損害の賠償をなすべき義務があるものというべきである。

次に、被告会社が本件自動車を所有し、常時これを自己の営業のために使用していたことは原告等と被告会社間に争いがなく、〔証拠略〕によると、被告会社多摩営業所は自動車四台を所有し、いずれも事業の執行にこれを使用しており、そのうちの一台(本件自動車)は被告大久保の専属使用車として、同被告に商品販売、外交等の用途に使用させるほか、同被告の出勤、退社の際にはこれを同被告が利用することを承認し、且つその車の鍵も同被告に保管、所持させ、退社してから出勤するまでの夜間は同被告にその保管の責任を持たせていたこと、そして本件事故は、被告大久保が昭和四三年八月二九日の夜八時頃から、立川市内の前記バーにおいて右勤務先の営業所長川崎肇外同営業所の社員一名及び本社の社員一名と共に飲食した後、午後一一時過ぎに右バーを出てタクシーに乗つて一旦右被告会社多摩営業所に戻り、暫く酔をさました後、本件自動車を被告大久保がいつものとおり運転して帰宅する途上において惹起した事故であること、しかして、右バーから右営業所までタクシーで帰る途中には同被告の自宅があつて、そこで降りれば難なく自宅に帰り得たにも拘らず、同被告は翌朝の出勤の便宜もあつても、本件自動車に乗つて帰宅しようと思い、右の如き安全な行為をとらずに一旦会社営業所まで戻つて本件自動車を運転して帰宅したものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実に照らせば、本件事故は被告大久保が被告会社の業務の執行中に発生せしめた事故というべきである。蓋し、被告大久保の本件自動車の運転は、同被告が被告会社からの帰宅の途中において被告会社所有の本件自動車を運転して惹起せしめたものであるから、その行為と状況とを客観的に、且つ外形的に観察すれば、同被告の職務の範囲内の行為と認めるものを相当とするからである(最高裁昭和三七年(オ)第五八九号、同三九年二月四日第三小法廷判決、民集第一八巻第二号二五二頁参照)。

被告会社は被告大久保の本件不法行為は被告会社の業務の執行中の行為ではない旨主張して抗争するので、その主張点について考えるに、前記認定事実及び〔証拠略〕によると、被告大久保は森岡道郎と前記バーを八月二九日夜一一時頃出て、タクシーに同乗して帰社途上、前述のとおり被告大久保の家の前を通つたのであるが、被告大久保は最初から、一旦被告会社多摩営業所に帰つて、同人専用の本件自動車を運転して自宅に帰る意図を有し、同被告の自宅前で右タクシーを降りなかつたこと、そして前述のとおり会社に帰つて本件自動車を運転して帰宅する途上において本件事故を起したことが認められるのであるが、右の事実を以てしても、同被告の行為を客観的且つ外形的に観察すれば、やはり同被告の本件行為は被告会社の業務の執行中に惹起した行為であるものというべきであつて、未だ前記の判断を左右するに足る程のものとはいい難い。よつて被告会社の抗弁第三点は採用し難い。しかしてまた被告会社の抗弁第四点も、ひつきよう民法第七一五条の「その事業の執行中」との規定の適用範囲を、前記判例の趣旨及び当裁判所の見解とは異つて、主観的且つ内容的に観察して定めようとの立場に立つ議論であり、容易にこれに左袒し難い。よつて右は採用出来ない。

すると被告会社も、本件不法行為によつて、原告等両名の蒙つた損害に対して被告大久保と連帯してその賠償の責に任ずべきものといわざるを得ない。

そこで、本件事故によつて原告等の蒙つた損害について考える。

先ず原告関谷関係であるが、〔証拠略〕によると、原告関谷は本件の交通事故により前述の如く同原告肩書地の同人所有の店舗兼居宅の建物の一部を損壊され、次のとおりの各損害を受けたことが認められる。即ち、

(一)  右事故により、右建物の通し柱を折られ、シヤツター、ガラス戸を壊され、建物の基礎部分、通し柱部分、建具工事、瓦のずれ等の補修または取替え、電気コンセント、スイツチの修理、ペンキ工事代等として、昭和四三年一〇月中に大工小林武次に合計三一万五〇〇〇円を支払い、

(二)  シヤツター等改修費として、同年一〇月四日に三和シヤツター工業株式会社に代金七万一八七〇円を支払い、

(三)  巻上式日除改修費として同年九月中に渡辺テント店に代金一万八一〇〇円を支払い、

(四)  本件事故の見舞いに来た親戚友人に対し食事を出して、その代金として合計六五五〇円を同年九月頃支払い、

(五)  本件事故によつて散乱した家のあと片付け等の手伝いに来た人に対して慰労のために酒等を出して、その購入代金として一八九〇円を支払い、

(六)  また原告関谷は本件事故当時昭和飛行機工業株式会社に勤務していたが、右事故により昭和四三年八月三〇日より一〇日間、家事の整理、工事立会い等のため同会社の勤務を休まざるを得なくなり、その間の給料を得ることが出来ずその損害として少くとも二万三三九七円(同位未満切捨)の得べかりし利益を喪失し、

(七)  同原告は、右建物を一面居宅として家族と共に使用していたものであるところ、深夜家族等と就寝中のところを前述の事故に会い、幸にして同原告を始め、その家族全員身体負傷等の被害はなかつたものの、場合によつては生命身体の損傷も免れ難いものであつたため、精神的衝撃を受けると共に、前述の如き店舗等の損壊を受けて約一カ月間の修理期間を必要とし、たとい、店舗等構築物を原状に復したとしても、同原告の前記精神的苦痛は容易に癒されるものではないこと、

以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかして以上の認定事実によると、同原告には全く何らの過失もなくして突然の災難に見舞われたものであり、一方その不法行為の侵害態様も法の禁止する酒酔い運転が一半の原因となつているとの事情を勘案すれば、同原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は八万円と認定するを相当と考える。

ところで同原告は、本件事故によつて、シヨーケース等損壊の損害、商品損害、営業不能による損害、営業減収による損害、以上合計三〇万四一五五円の損害を主張するが、同原告本人尋問の結果によると、右店舗兼居宅の建物において金華堂菓子店の名称で菓子類販売の営業をしているものは同原告の妻千代子であつて同原告ではないこと、そして右挙示の各損害は同原告の損害ではなくして右妻の損害に帰することが認められ、他に右各損害が同原告の損害であることを認めしめるに足る立証もない。

すると右損害合計三〇万四一五五円の主張についてはこれを認めしむべき立証不十分として認容し難いところである。

すると原告関谷は本件事故によつて、前記(一)乃至(七)の合計五一万六八〇七円の損害を蒙つたものというべきである。

次に原告西村喜作の損害について考える。〔証拠略〕により、昭和四三年八月三〇日に同原告方の店舗の状況を撮影した写真であることを認め得る〔証拠略〕によると、同原告は本件事故により前記のとおり同原告所有の店舗兼居宅を損壊せしめられて、左のとおりの損害を蒙つたことが認められる。即ち、

(一)  右事故により右建物の左側のガラス戸三枚、天井壁、柱一本、鴨居等を損壊せしめられて、これらの取替えないしは補修をして昭和四三年九月中に築地建設株式会社に代金一六万円を支払い、

(二)  シヨウウインドを破損されて同年一〇月五日頃に、三多摩ウインドに代金八万七三〇〇円の取替費用を支払い、

(三)  日除けのテントを損壊されて、その修理費用として同年九月三〇日頃渡辺テント店に代金一万五七〇〇円を支払い、

(四)  室内の塗装を仕直しせざるを得なくなり、同年九月八日頃に谷合信に対し代金一万〇七四五円を支払い、

(五)  照明設備の取替え及び修理をなし、その代金として、同年八月三一日頃に伊藤電機株式会社に対し二五〇〇円を、同年一一月一八日頃に有限会社中神電機商店に一万二六〇〇円、以上合計一万五一〇〇円を支払い、

(六)  店頭の看板を損壊されてその書替えをせざるを得なくなり同年一〇月三日に堀田俊夫に代金三五〇〇円を、

(七)  店内のフロツク山型等を損壊せしめられて、その取替えをなし、同年九月二六日に株式会社西川金太郎商店に代金二七五〇円を支払い、

(八)  本件事故の後片付けに手伝いに来てくれた人に対して茶菓子の接待をなし、その頃その代金三三四五円を支払い、

(九)  更に、同原告は本件事故によつて損壊された前記建物の修理費用のために、多摩中央信用金庫昭島支店から同年九月一四日頃に八〇万円を利息日歩二銭五厘、弁済期昭和四三年一二月三一日と定めて借受け、同原告は右借受金に対する利息等の支払いとして、

1  元金八〇万円に対する同年九月一四日より同年一二月二四日まで一〇九日分、日歩二銭五厘の割合による計一万〇二〇〇円(同原告は弁済期日前の同年一二月二四日に元金内金四〇万円は弁済した)、

2  残元金四〇万円に対する同年一二月二四日から昭和四四年三月三一日まで九八日間分、日歩二銭五厘の割合による利息等合計九八〇〇円、

3  同金庫より前記金員を借受けるにつき手形貸付の方法によつたので、元金八〇万円借入のとき手形貼用印紙代として七〇円、残金四〇万円となつたときの手形貼用印紙代として五〇円、右合計一二〇円、

結局同金庫に、右1、2、3の合計金二万〇一二〇円を支払い、

(一〇)  同原告は右店舗の損壊により昭和四三年八月三〇日より二八日間程営業が出来なくなり、その間の得べかりし利益として少くとも四万五〇〇〇円を喪失し、

(一一)  右事故によりウインドにあつたブラウスやスカートがぼろぼろとなつて商品価値を滅失し、全部で二〇枚程損傷を受け、

(一二)  同原告は右建物を居宅としても家族と共に使用していたものであるところ、原告関谷の場合と全く同様に深夜就寝中突然に本件事故に会い、同原告始めその家族全員には身体負傷等の被害はなかつたが、場合によつては生命身体の損傷も免れ難いものであつたため精神的衝撃を受けると共に前述の如き店舗等の損壊を受けて約二八日間の修理期間を必要としたものであつて、たとい、店舗の構築物を原状に復したとしても、同原告の前記精神的苦痛は容易に癒されるものではないこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告西村本人尋問の結果の一部は前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定に反する証拠はない。しかして以上の認定事実によると、同原告には全く何らの過失なくして突然の災難に見舞われたものであると共に、被告大久保の右不法行為の原因が前記のとおりであることを勘案すると、同原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は八万円と認定するのを相当と考える。更に、前記(一一)の同原告の蒙つた損害については、右に挙示する二〇点の商品は〔証拠略〕によればこれを低く評価しても一枚平均五〇〇円はするものと認められるので、その損害額は最低一万円となるものと考える。

すると同原告は本件事故によつて、右(一)乃至(一二)の損害の合計四五万三五六〇円の損害を蒙つたものというべきであり、右を超える同原告主張の損害はこれを認めしむべき証拠も不十分であつて採用し難い。

果して以上のとおりであるとすれば、被告大久保は民法第七〇九条に基づき、被告会社は同法第七一五条に基づき、各自、原告関谷に対しては損害金五一万六八〇七円、原告西村に対しては損害金四五万三五六〇円、及び右各金員に対する右各損害発生の後である昭和四四年三月六日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり被告等に対し、各自、右支払いを求める限度において、原告等の本訴各請求は正当であるが、右を超える分については右各請求はいずれも失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を、原告等の各勝訴部分に対する仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳寿)

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